old teachers never die; they just lose their class [日記]

大往生、享年96歳でした。

神道なので、大往生という言い方にはなりませんが、息子さんもそう言っていたので良しとしましょう。

神道では、死んだ人は神になるそうです。

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一週間前、昏睡状態になり、一度意識を取り戻した後、ゆっくり心臓を止めたそうです。

最後は自宅の方が良かった…と、たぶん本人は思っていたんじゃないかな…というのが、少し心残り。



天に召される4日前、様子伺いに。

生きていると言えば生きているし、寝ていると言えば寝ているし。

耳が遠いのは知っていたし、病院に着いた時間も遅かったから、いつものように大声は出せないので、何となく耳元で囁いてみた。

話しかけても応えが返って来ない事は知っていても、何となく。

これが最後の面会だろうな~と思うのは、決して不謹慎な事じゃないと思う。

往診の時にいつもする脈診をした。

死ぬ間際の人の脈って、こんな感じなんだ~と、有難く思ったり。

会いに行って良かったと思う。



本当にそれが最後の面会だった。



お葬式の後

「長い間お世話になりました」なんて、家族に頭下げられた日にゃ、なんか意味不明な涙が出てきそうになります。

大往生のはずなのに、ね。

悲しいとかそういう具体的な感情よりも、もっとダイナミックな心の動きなのかな。



棺桶の中には、辞典を一冊入れたそうだ。

もう何十年も使っている辞典。

入院中も身に着けていた腕時計は流石に入れられなかったか。

きっと、これが一番のお気に入りだったと思っている。

盤面に無数の傷が残っている。

きっと、その患者さんが初めて買った時計なんだろうと思う。

その人と同じぐらいの時間を刻んできた時計。

電池が切れるまでは、まだもう少し動き続けるだろう。



他の遺品の中に、大量の書籍がある。

これを僕に譲ってくれると言う。

ありがたいこと。

かなり専門的な本(化学の権威だったらしい)や、趣味の漢文の本なんかもある。

多分、読んでも分からん(^_^;)

沢山ありすぎて、とりあえず紙袋5個分だけ車に積んだ。

ページの所々に、色ペンで線が引いてある。

この人がどういうモノの見方をしていたのかを、少し垣間見る。

几帳面な人だったが、物を捨てられない人でもあった。

勿体無いからと言って、紙袋を押入れ一杯に仕舞ってある。

きっちり一枚一枚折り畳んで、サイズを併せて、きれいに整列されている。



短い付き合いだったけど、偉大な人だと思った。

同時に、とても可愛らしい人だとも思った。



「あぁぁぁぁ~気持ちよかった~。生き返ったみたい」と言うのが、鍼治療後の口癖だった。

96歳になって、生き返るってのは、冗談に聞こえない時もある。

本当に生き返っているのかと思った時もあったりして…。

緩んだ口元から入歯が落ちそうになっていた。



しばらくして、家に行った時、神棚(?)に五平餅が供えてあった。

「ちょうど売っててねぇ、もう少し早く売ってたら、食べさせてやればよかった」って、奥さん。



死後の財産管理で、判子がどこにあるか分からないと言う。

旦那さんが無くなられて、奥さんはドギマギしている。

喪失感という悲壮感よりも、この2人が長年連れ添ってきたカタチが今も垣間見える。

モノの管理は、全て旦那さんがやっていた。

奥さんは整理が苦手らしい。

旦那さんが亡くなられてから、2人の相槌がよく見えるようになった。

今でも、まだ、ダイニングの一番奥で、頬杖ついて、新聞を読んでいる姿が思い浮かぶ。

その後は、恒例の切り抜きが始まる。



鴛鴦(おしどり)は、番(つが)いに先立たれると、新しいパートナーを直ぐに見つける習性があると言うが、鴛鴦夫婦という言葉の通り、2人は今でも本当に仲睦まじく映っている。

と言っても、今は、一人と空席のソファーがあるだけ。



まだまだ人生経験の浅い僕ですが、なんだか上質な物語を読んだような気分。

もう少し、物語の続きを読んでみたいと、我儘を言ってみる。

遺品の中から一冊の本を取り出し、想ってみる…。

ちっぽけな自分が、あるページの上で小人のように地団駄を踏んで文字を散らかしているようだ…。

自分の中には、やっぱり遣り残していた事があったんだと思う。

我儘だなぁ、僕は~。
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